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Channel: 能寿のブログ
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カラオケ

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鳥居實本くんにとって普段の仕事は面白いとは思えずむしろ苦痛である。
プライベートでも趣味はなく、つまるところ彼の人生には楽しいということがない。
一応社会人として生きているのでそれなりの行動はしなくてはならないがそれはそれで億劫である。
結局彼にとって生きてることはどちらかと言えば苦しいのである。
そんな彼が友人に誘われ久しぶりにカラオケに行く。
彼の歌声は結構甘くエコー映えもするので人並には歌えるのではないかと自負しているが、
何かベトっとして聴く者には何かいやらしい感じを与えるのではないかと感じている。
結局のところ、歌のヘタウマがどうであれ人は自分の歌にのみ関心があるのであって
他人の歌なんぞに興味はないのだからこの場は自分が楽しめばよいのだと心を落ち着かせてみる。

實本君と彼の友人は交互に歌う。
實本君は、友人が歌った長淵剛さんの“Captain of the Ship”を聞いて面白いと思う。
やたら長い歌なのだが情熱がほとばしっていて倒れるまで叫び歌いをしても良いかな、と思う。
君は君の船に乗り
君がその舵を取らねばならぬ
君こそがその船のキャプテンなのだ
みたいな内容だ。
生きて生きて生きて生きて生きて生きて生きまくれ
と叫ぶ。

中島みゆきさんの“宙船”を思い出す。
「その船を漕いで行け お前の手で漕いで行け
お前が消えて喜ぶものに お前のオールをまかせるな」
中島みゆきさんは冷徹だ。
あわれ生き物はみなあい食みあう。
個の命は他の個の命を奪って生き延びる。

實本くんはさびしくなりながらもそれを打ち消すように叫ぶ
生きて生きて生きて生きて生きて生きて生きまくれ
お前が決めろお前が決めろお前が決めろお前が舵をとれ

實本くんは思う。
「おれはこれまで俺の船をおれのオールで漕いだことがない。
何も自分で決めたことがない。
そしてこれからもそうだろう。
おれはおれの命を生ききらぬまま個の命を終えるだろう。」

「如来の願船」
という言葉を思い出す。
あるかたはこういう感じ方をされた。
「如来の願船 いまさずは 苦海をいかでか わたるべき」

そして彼はこう思おうとする。
「この船は私の船でないと同時にわれらの船だ。
そしてそのキャプテンは老少善悪の私ではない。
金剛の信を賜ったわれらこそ、そのキャプテンだ。」
そしてつぶやく。
「虚飾なのか」と。

彼は願う。
「たかだか運命の恵みであったとしても
世の中を楽しみたい。」と。
しかし、ある人の良心について語られる言葉に惹かれる。
「世の中の楽しみを断念しうる生のみが幸福なのだ。
認識の生とは、世の中の苦しみにもかかわらず幸福であるような生のことだ。
良心とは認識の生が保証する幸福のことだ。」





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